【ドルーリー朱瑛里】第1回:誰かに言われたからじゃない。ただ速くなりたかった

Cross Track

次世代のトップアスリートのリアルな思考を掘り下げるメディア『Cross Track』。
今回からの三回は、女子1500mを専門とするドルーリー朱瑛里についてだ。

全中優勝や都道府県駅伝での区間新記録、そしてU20アジア選手権での優勝。1500mを軸にしながら、年代を代表する中長距離選手の一人として名前を知られる存在である。

ただ、成績だけを見ていると、この選手の本質は見えにくい。

どんな考えで走ってきたのか。なぜ自分で動いてきたのか。競技とどう向き合ってきたのか。そうしたところにこそ、彼女の輪郭が出ると取材を通して私は感じた。

第一回で見ていくのは、彼女の原点と、1500mへの向き合いだ。

なぜ走ることに惹かれたのか。なぜ「誰かに言われる前に、自分で始める」感覚ができたのか。そして、その性質がなぜ1500mという種目と重なっていったのか。

第二回以降で見ていく成長の経験やこれからのビジョンの前に、まずはこれを出発としたい。

走ることそのものが好きだった

最初から、1500mの選手だったわけではない。
もっと手前にある。走ることそのものへの好意だ。

ドルーリー朱瑛里は、もともと体を動かすことが好きだったという。
幼稚園の頃から、かけっこは一番速かった。
はっきりした理由があったわけではない。ただ、周りより少し速い。

その感覚の積み重ねの中で、走ることが好きになっていった。

漠然と陸上したいな、みたいな感じでした」

地元の小学校のクラブは、小学四年生からしか入れなかった。
だから、それまで待った。
やっと入れたクラブで、最初にやっていたのは短距離だった。

中距離に向かうきっかけが来たのは、小学四年生の春だった。

地元のリレーマラソンに出ることになり、その前に一キロほどのタイムトライアルをした。
そこで、後ろを大きく引き離した。

コーチから「800mをやってみないか」と声をかけられ、中距離を始めた。

本人は、その時点で自分の才能をはっきり認識していたわけではない。
ただ、振り返ってみると、思い当たる日常はある。

ランドセルを背負って、学校から家までを毎日のように全力で走って帰っていた。六年間、近所の男子と競いながら帰るのが当たり前だったという。

「謎に毎日T.T.(タイムトライアル)して帰ってました」

体系だったトレーニングをしていたわけではない。ただ、走ることが生活の中に入り込んでいた。

800が好きというより、陸上が好きでした

Photo provided by the athlete

速くなりたい、が先にあった

速かった記憶はある。それでも、彼女は今も、自分を「飛び抜けて器用なタイプではない」と見る。むしろ凡人だという感覚の方が近い。だからこそ、回数で埋めようとしていた。

小学生の頃から、クラブの練習以外に自分で走ったり、腹筋や縄跳びをしたりした。

理屈が先にあったわけではない。ただ、他の人より少し頑張る。
速くなりたいから、自分で足す。その感覚は、かなり早い段階からあった。

誰かに言われて何かするっていうより、ただ単純に速くなりたい、みたいな感じでした

速くなりたいから、自分で足す。その感覚は、かなり早い段階からあった。

小学校の頃、彼女はバスケットボールも続けていた。
そこで強く出ていたのが、負けず嫌いな性格だった。
自分がミスをしたら、自分で取り返しにいく。

「とりあえずミスを取り返さないと、みたいな感じでした」

その感覚は、中学以降陸上を選択したことにつながっている。

中学に入ると、陸上が主軸になる。学校に陸上部があった。

「団体種目より個人種目の方が、自分を突き詰めれるというか」
「自分がやった分、結果が出やすいのかなっていうのが陸上でした」

Photo provided by the athlete

一度離れて、戻ってきた

中学3年生の時、楽しく走ることができないなら、続ける意味があるのかと思い、数週間ほどポイント練習をやめて、走りたい時にジョグをする日々を過ごした。

でも、その時間で気づけたことがあった。

「陸上がないと、自分は毎日どこか物足りない。」
「やっぱり、自分は陸上なんだなと思えた。」

1500mとの向き合い

レースへの入り方

彼女はレース前、イメージトレーニングをする。

あらかじめ頭の中で様々な展開をイメージしておくことで、実際に起きた時に対応しやすくする。

ただ、本番で求めている状態はシンプルだ。

レースではもう“やるだけ”っていう思考で臨みたい

考えるべきことは前もって終わらせておいて、当日は余計なことを増やさない。
実際、かつてはルーティンを細かく固めていた時期もあったが、今はあえて固定しすぎないと言う。

その日の体や感覚に合わせて、柔軟に調整していく。
レース展開も同じだ。

イメージはしておくが、最後は流れの中で判断をしていく。

「何メートルで仕掛けるとか、何メートルから上げるみたいなのは、あんまり決めてないかもしれないですね。
レースの流れに任せることが多いです」

その柔らかさは、何も考えていないこととは違う。

自分がコントロールできることだけに集中するってことですかね」

そのベースにあるのは、一つの感覚だ。

彼女にとって自信は、練習の積み重ねからしか生まれない。

積み上げてきたものを、そのままレースで発揮する。
レースは特別なものではなく、準備の延長線上にある。

だからこそ彼女は、当日ではなく、日々に全てを置いている。

Photo provided by the athlete

なぜ1500mなのか

この柔らかさと現実性は、1500mという種目の見方とも重なる。

ドルーリーが1500mに惹かれているのは、800mのような爆発的な一瞬だけでもなく、5000mや10000mのような持久一辺倒でもないからだ。
1500mには動きがあり、レース中の流れが毎回違う。

「レースの中でも一番駆け引きがあるのが1500かなと思ってて」

流れに任せる面白さ」がある。

彼女は、何も考えずに走る選手ではない。
むしろ準備はしている。展開も想定している。悪いケースも頭に入れている。
だが最後は、全部を固定しない。自分の感覚を残したまま、レースの流れの中に入っていく。

その状態に入れた時、彼女は強い。

編集後記

最初から1500mの選手だったわけではない。

走ることそのものが好きだった。
その中で、少しずつ中距離に出会い、個人種目に惹かれ、自分で速くなろうとし続けた。その先に、1500mがあった。

駆け引きがあり、流れが毎回違う。
準備はするが、最後はその流れに身を置く。速くなりたいというまっすぐな欲求が、自分で考え、自分で積み上げ、最後は流れの中で走る彼女の性質と噛み合った。その先に、1500mが残った。そんな気がした。

第二回 予告

速くなりたいから自分で始める。

次回は、その自己駆動が高校時代にどう加速し、思考がどのように変化していったかを追う。

高校時代の結果の裏にあった、もう一つの時間を記していく。

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

吉澤 登吾

U20日本選手権優勝(大会新記録)を果たし、その際のタイム1分47秒80は高校日本歴代5位というトップクラスの記録であった。その一方で、東京大学 理科一類に現役合格を果たしており、まさに“究極の文武両道”の体現者だ。U20世界選手権日本代表という世界レベルでの経験と、東大合格という揺るぎない知的な実績を持つ。

Noah|1人のアスリート

国内最高峰の大会でメダル獲得という実績を持つ。トップレベルで実績を持つアスリートとの対談を通じ、結果の裏にある価値を再発見。異分野との対話から、吉澤と共に刺激的な学びを生み出す。

最近の記事
  1. 【ドルーリー朱瑛里】第3回:終わらない道を進みながら、唯一無二になっていく

  2. 【ドルーリー朱瑛里】第2回:「一人でやる」限界と「他者に頼る」選択

  3. 【ドルーリー朱瑛里】第1回:誰かに言われたからじゃない。ただ速くなりたかった

TOP
CLOSE