【佐々木哲】第3回: 究極の走りと、特別な存在。

Cross Track

次世代のトップアスリートのリアルな思考を掘り下げるメディア『Cross Track』。今回は、前回・前々回に引き続き、男子3000m障害を専門とする早稲田大学の佐々木哲に話を聞いた。

彼は、これからどこを目指し、どのようにそれを実現していくのか。彼の言葉を追っていくと、その答えは一貫している。目標は二つ。

究極の走り」「特別な存在」だ。

レースがない時期も、うまくいかない時も、その目標が熱を与えてくれるという。

究極の走り

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究極の走りとは何か。
佐々木の言う「究極の走り」は、単なるタイムの更新ではない。

もちろん彼は、歴代で誰も走ったことのないタイムを本気で狙っている。従来の記録を10秒、20秒と更新し、その走りでチームの勝利に貢献する。だが、それだけでは足りない。

「究極の走りって何かって言われると、今まで感じたことのない景色の変わり方とか、スピード感。それに対しての余裕度。そういう感覚を味わいたい。」

技術的な言語化は難しいと前置きしながら、彼は一言でこう表現した。

「 “ダイナミック” に “刻む” かな。」

覚醒した一日:都道府県駅伝という集大成

その感覚に最も近づいたのが、2025年1月の都道府県駅伝だった。
1km2分45秒ペース。それにもかかわらず、余裕があった。地面に力をグッと加えると、身体が自然に前へと跳ね返ってくる。

「腕振りのインパクトのタイミング、足の接地、体が落ちきったところからの反動。全部がきれいに噛み合ってた。」

直前までの練習では調子は突出してよかったわけではない。その走りには、高校最後の全国大会という文脈があった。

「レースの中継所に向かうまでのバスで、これまでの3年間を振り返って、感極まったというか、まじ泣けてきて。あんま書いてほしくないけど(笑)。」

3年間の苦しさ。貧血で走れなかった日。先輩とうまくいかず、入寮3日目に一人で泣いた昼寝の時間。陸上を辞めたくなるほど追い込まれた時期。
そのすべてを越えて、最後の舞台に立っているという実感。

「思いって、走りに変わるんだなって思った。」

当日の気持ちは、静かだが、確かに、過去最高に熱を帯びていた。

「もうレース前の時点で満たされてた。でも、だからこそ、今までの俺のやってきた証を見せてやろうって」

特別な存在

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佐々木がもう一つ掲げる理想が、「特別な存在になる」ことだ。
それは、単に誰よりも強い選手になるという意味ではない。

「これからの後輩たちが、こんな選手に憧れて競技を始めました、みたいなのが出てきてくれたら嬉しいなって。」

ただ走る人間ではなく、「なぜ走るのか、走ることで何を得られるのか」といった意味まで含めて伝えられる存在になりたいという。
地道に実力を積み上げ、それが結果として表れたときの感情。そのプロセスそのものが、ランニングの魅力なのだと。

究極と特別は、相互に作用する

佐々木は、「究極の走り」と「特別な存在」は相互に関係し合うと考える。

究極の走りをするから特別になる。
そして、特別な存在であろうとするからこそ、究極の走りに近づいていく。

そのために必要なのは、従来のやり方に縛られない視点だ。

「究極って、従来のやり方にとらわれないような新しい視点を持ってトレーニングに取り組むことだったりとか、そういう特別な考えを持った人間が特別な結果を残していくと思う。」

開拓者としてのトレーニング観

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彼にとっての“特別なやり方”は明確だ。
多くの長距離選手が「走ること」だけにフォーカスする中で、佐々木はあえて走り以外を徹底的に掘り下げてきた。

3000m障害という種目だからこそ、

・短距離・ハードル選手の動きの学習
・100mHの動きを3000m障害に落とし込む試行錯誤
・シーズン中でも週2〜3回行うハードルドリル
・ウエイトトレーニング

こうした「走り以外」の部分に重点を置いてきた。
ただ長い距離を速く走る、という常識にとらわれず、動きの形やベースから極める。

「結果を出せる一つの道を作ってみたい。開拓者になりたい」

ただ、理想を明確に描けば描くほど、避けて通れない問いも浮かび上がってくる。
それは、競技の選択であり、進路であり、そして「どこまで行くのか」という、自分自身への問いだった。

どこまで行くのか、どこで終えるのか

箱根駅伝と、3000m障害

箱根駅伝と3000m障害。その両立には葛藤がある。
チームスポーツは好きだし、出ること自体は可能かもしれない。それでも、両方を極める難しさは理解している。

「100メートル選手が1500mやるぐらいのイメージなんだよな。やっぱり、メインは3000m障害。トラックで、どこまで行けるのかを見たい。」

新しいことが好きで、新しい世界を見たい。その可能性が最も広がっているのが、3000m障害だと感じている。

勝った後、その先に向かえるのか

トラックで活躍した後、気持ちが緩む。その流れを断ち切るために、駅伝がある。駅伝を挟むことで、また春が来て、トラックシーズンが始まる。
その循環の中で、目標は自然に現れてきた。だから、結果に満足して終わってしまうことはなかった。
今の目標は、今年のアジア大会。開催地は名古屋。地元だ。

しかし、佐々木哲は大学で陸上をやめるプランもあるようだ。

「大学以降も走っている自分が想像できないところはあるかな。思いが強すぎる分、終わりが見えていないとやれない部分もある。」

これもまた、リアルな言葉だ。

越え続けるということ

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引退後も続く「極める」思考

引退後も、彼の関心は変わらない。
競技や分野は違っても、「極める」という思考そのものを楽しみ続けたい。

彼は、「極める」をこう表現した。

「取り組んでる物事に、誰よりも真摯に向き合って、結果で証明することはもちろん、それだけじゃなくて、そこまでの過程を何よりも大切にすること。」

一見違う道の中にある共通点を見つけていきたいという。

3000m障害は人生だ

「3000m障害は、俺の人生です」

どんなに苦しくても、障害を越えなければ終わらない。
今どこを走っているのか。2000mなのか、2990mなのか。
いずれにせよ、越え続けなければ前には進めない。
佐々木哲はこれからも、壁を越え続ける。

「どんな結果を出すかには固執してない、大事なのはそこじゃない。その瞬間まで、どんな人生を生きて、どんな走りザマで生きてきたか。その最後に、どんなゴールを作ったか。それを以て、どう自分自身の物語を作れたと振り返るか。そしてそんな生き様が、自分にとって最高で、最後はかっこいいものでありたいなと思う。」

その先にある“究極”と“特別”を、自らの道で目指していく。

【終わり】

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吉澤 登吾

U20日本選手権優勝(大会新記録)を果たし、その際のタイム1分47秒80は高校日本歴代5位というトップクラスの記録であった。その一方で、東京大学 理科一類に現役合格を果たしており、まさに“究極の文武両道”の体現者だ。U20世界選手権日本代表という世界レベルでの経験と、東大合格という揺るぎない知的な実績を持つ。

Noah|1人のアスリート

国内最高峰の大会でメダル獲得という実績を持つ。トップレベルで実績を持つアスリートとの対談を通じ、結果の裏にある価値を再発見。異分野との対話から、吉澤と共に刺激的な学びを生み出す。

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